過去 Past
準備中。
うさぎタウンバンドが興るよりも前、ずっと昔、杏が学生の頃の話。
全てに執着の無かった杏が「はゆ」という一つの命を預かるまでの、長いようで短い幕間。
ある日の屋上で、宇佐美杏は偶然にも飛び降りようとしている御影池結乃を見つけてしまう。
別段助けるつもりもなかった杏は気にせずに居座るだけだったが、彼女は「最期くらい気にしてほしい」と拗ね、結果的に思い留まることになるのだった。
彼女の話によれば、個人レッスンの際、ギター講師の男性に無理やり迫られたことに耐え兼ね手元にあったSM58で殴り殺してしまったのだとか。
殺意を持った犯行ならまだしも、女性の腕力の偶の一撃で死に至るのかを疑問に思った杏は、真実を確かめるために講師の部屋を訪れる……。
事件後に姿を消した杏の行方が気になった結乃は、かの屋上で再びその背中を見る。
今にも飛び降りそうな彼女を呼び止め、結乃はあの日の謝罪とお礼を述べる。
どこかへ旅立とうとする命の恩人を繋ぎとめるため、結乃は杏と町へ繰り出すのだった。
明日になったら今度こそ飛び降りてしまうかもしれない ――― そんな不安を胸に抱えながら。
どんな理由があろうと、自分がここにいるのは他でもない杏のおかげ。
それだけは確かで、揺らぐことのない真実だから。