再三再四
Chapter2
「私の教科書、一緒に見ますか?」
わたしは特別君と話したことはなかったんだけど、授業に遅れるよりはマシかってなって、思わず、「ありがと!」なんて小気味よく言ってしまった。化学の先生は怒らすとおっかないから。
でも、その時の君の反応の方が、そんなのよりずっとおっかないよ。
なにも、そんなさぁ、生まれて初めて感謝されたみたいなウブい反応することないよね。
わたしなんて特に何にも良いことしてないのに、なんか照れるじゃん。照れ殺しだよ。
まぁでも、そんなこんなで怒られずに済んだわけだし。
つまんなそうに本を読んでるだけの君が、思ったよりも明るくて話しやすい人だってのも、おまけでわかったし。万事オッケー。
「ねぇねぇ。お昼一緒に食べる?」
この間のお礼になんて言ったら、一人でいることを馬鹿にしてるって怒るだろうから、わたしなりに気を遣ったつもり。
「いつもの人たちと食べなくていいんですか?」
あのグループは、入学式直後に近くに座っていたから自然とできた輪。
自然と輪になれる意識高い系の人達がたまたま近くにいて、わたしも少しだけ意識が高かったって、それだけの付き合い。正直、流行に疎いわたしからすれば、極論面倒。
「みんな学食で、今日わたしお弁当だから。さ、食べよ。お弁当でしょ?」
「そう、ですけど……」
別に、ただの気分転換だよ。「やれやれ」って、ため息が出る程、意味なんてない。
***
「ああ。あの人ね。ちょっと最近うざいよね」
「前みたいに隅っこで本でも読んでればいいのにさ」
なんだろう。前は、似たようなことを他の誰かにも言っていた気がするのに、今はそんな気分になれない。むしろ、君のことを誰かが馬鹿にするの、ホント胸糞が悪い。なんだか寂しい。
そんなグループの意見とわたしの腹背の温度差を、近頃すごく感じる。
はぁ。寒いなぁ。
まるで、心に雪が、降ってるみたい。