一期一会
Chapter8
私たちはまだ、高校生だ。
それなら、これからのこともある程度変えていける。悪いようにも、良いようにも。
私の放った甘言は、梓をどちらに誘えるだろうか。
梓から漂う甘い香りは、私をどちらに誘うだろうか。
同じ大学に行って、同じ学部に行って、できれば同じ部屋に住む。
就職も同じところにしたいし、嬉しい時も悲しい時も健やかなるときも病める時も、ずっと一緒にいたい。
でも、その半分は時間が決めること。
今、できることは、梓にテストの予行演習をしてあげることくらいだと思った。
私は中学時代から、人のやっている問題に手を出すのが趣味だった。
勝手に採点したり、赤ペンでアドバイスを書いたり。友達もいないくせに、好事家なりにそんなことをしていた。
それが、こんなところで役に立つとは思いもしない。
「葉月、教え方上手いね。どんどん解けるような気がするよ」
「ありがとうございます。梓は、スポーツ教えるのすごく上手だと思う。ピアノも弾けるのすごいよ。小学校の先生、向いてますよ」
「でもバカだしなー。あーあ。合体したら、完璧な先生になれるのになー」
「…………」
「あーあ。完璧な先生に――」
「集中してください」
「意地悪」
梓のノートに解答が書き込まれれば、同じように私の心にも梓の感触が刻まれる。
私の体が球技の動作を覚えれば、きっと、梓の心には私の気持ちが刻まれる。
お互いの想いを隠していた白雪は解けて、透明になって、流れは澄んでゆく。
これから何かに堰き止められることは、決してない。
どこからともなく流れて来た濁りにも、再び訪れた白雪にも。
一期一会の私たちの出会いは、淀みなく、揺らぎなく、これからも。
未来という足枷を嵌められては浮遊しようと努めて、そして疲労して。
愛でも恋でもない、中途半端で極端な“好き”という想いを温めて。
暫くは不安定でいるはずだろう。