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一期一会

Chapter6


 結局、過度な接触は無いまま、夜を迎えた。
 脱衣に始まり、髪を洗ってあげたり、背中を流したり、着衣に至るまで。
 狼狽する梓を拝むのもいいところで、部屋に戻った。
 妹のいる私はある程度は慣れているけれど、同年代の友人の裸というものはそれなりに堪えるらしい。
 梓は部屋に戻るなり、冷たくて白い布団の海へとダイヴしたのだった。
 話に聞く『恋バナ』というものを微かに期待していた私は、それから「ふぅ」と安堵の溜息をついて、静かにその後を追った。


「こういうの、初めてだから割と緊張するよ」
「初めて、なんですか? 前、お付き合いしていた方とは……?」
「無理無理無理。男子とこんなことしたら襲われるって。間違いなく。十中八九」


 そんなことを言うので、聞いてみたくなった。


「私は、十中いくつですか?」
「えっ……?」


 私しか知らない、“弱い梓”が見たくなってしまって。


「冗談です。うふふっ、ごめんなさい」
「…………」


 そんな顔をして黙り込んでも、この距離では無駄だと言うのに。
 息の結絡からまるこの距離では、慈愛も悲哀も欲望も羨望も、すべてが手に取るようにわかってしまうのだから。
 当然、私自身も例外なく。


「いいのに。別に」


 梓がそう言った瞬間、自分の中の時計のようなものがスローモーションになったような気がした。
 次第に刻む音も消えて、そのうちに外向きの感覚は完全に停止したようになる。
 早いのか遅いのかもわからない、進んでいるのか止まっているのかもわからない。そんな感覚。
 交叉まじわる吐息を飲み込みながら、私はあなたを求めた。


「梓……」


 畳の匂い、布団の匂い、温泉の匂い、梓の匂い、梓の匂い、梓の匂い。
 全部忘れて、思い出せないくらい、私は今、感情の渦に溺れている。

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