一期一会
Chapter5
ちょっと待て。
事実上誘ったのは確かにわたしだと思うんだけど、最初に誘ったのは確か葉月なんだ。
場所を提案したのはわたしだけど、最後に決めたのは葉月なんだ。
ああ。それってつまり、二人で旅行先を決めただけじゃないか。
それも、下心丸出しで。
「いいお部屋ですね」
「うん……! そうだね……っ」
山を少し登ったところにある温泉街。
それなりの標高に立地しているからか、僻地料金にしては景色も悪くない。
いや、窓なんて校庭の調子を見るくらいにしか使わないから、杓子定規もいいとこなんだけど。
ちょうど、うちの親が先々月に泊まったとかで、八割引とかのクーポンを持っていたのだ。
布団が一つしか用意されない仕様のカップル用相部屋になったのも、致し方がない。
狙いあってのことではない。
「さて。この後、どうしますか?」
「うーん。まだ昼過ぎだし、お風呂に行くのには早いような気もするなぁ。さっき食べたばっかでお腹も減ってない。一泊予定だから、温泉街を見るのは明日でも大丈夫だし……。とりあえず、休む……とか? 葉月は?」
「宮川さんのしたいこと、でいいですよ」
「ふぅん……。じゃあ、葉月に名前で呼んでもらう」
「……キス、したいんですね。ふぅん……」
「な、なんだよ。悪いっ?」
ちょっと待て。
事実上誘ったのは確かにわたしだと思うんだけど、最初に誘ったのは確か葉月なんだ。
場所を提案したのはわたしだけど、最後に決めたのは葉月なんだ。
ああ。それってつまり、そういうことじゃないか。