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一期一会

Chapter4

 髪の毛を染めたり、ピアス穴を開けたり、流行のファッションをしてみたり。
 学校で生活するうえで必要のないことをしている人たちは皆、私なんかよりもずっとずっと強いものだと思っていた。精神的にも、体力的にもそう。
 私にはどちらも足りていないから、できないのだと理論づけしていた。
 でも、このところその理論は否定されつつあった。


「ちょっと葉月」
「どうしました?」


 子供の屁理屈を聴く様に、私は小さく笑って返す。
 仏頂面をした梓の耳朶から覗く鈍色の光は、それはそれは煌々と私を睨んでいたと思う。
 一瞬だけど、今でもどきりとさせられる。
 そうしていつも、梓から香ってくる甘いチョコレートの匂いで我に返るのだ。


「どうしました、じゃないよっ。ああいうこと、教室で言わない約束でしょ!」
「ごめんなさい……。でも、私、宮川さん・・・・のこと、好きですから」
「宮……。うー……。なんも言い返せないじゃん。そんなこと言われたら……」


 しようのない私の理論は、梓に縋りつかれてすっかり表面がはだけていた。
 ずっと強いと思っていた梓が、近頃、酷くか弱く見えて。
 詐欺なんじゃないかと勝手に疑ったりもした。
 けれど、それが自分のせいなのだと知った途端に、私は途方もない優越感に満たされてしまった。
 まるで、梓を手に入れたかのような。
 今よりもっと自分の性格が悪かったら、私の言いなりになってくれるのではないかと言うような。
 梓が私の名前を呼ぶ度に、それは甘言かのように振る舞って、俄かに私を誘うのだ。
 私は時々、そういう危うい公式に則ってしまいたくなる。


「それなら今度、二人で遊びに行きませんか? お詫び、ということでもいいです。宮川さんの行きたいところでいいですよ。海でも山でも。日帰りでも……泊まりでも」


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