#04 愛乃prisoner
#04 愛乃prisoner
登場人物
駅前のジャズバーのステージを借りて定期的に演奏している3人。
実際のお客さんを入れた対バン公演のオファーを受けることにしたJCトリオは、放課後の自主練習にも熱が入り――。
ねえ、愛乃。
ここどう吹けばいいの?
そこはね〜。
〜♪
こうかな〜。
「タタタ、ンータタタ」って感じ?
???
シャッフル難しいよね〜。
合わせると余計わからなくなるのよ。
そうだね〜。
音の合間を縫うというかなんというか。
連符は独特な感覚だよね〜。
〜♪
!?
……なんで?
なんであんたはできんのよ!
この……吹部の演奏の裏取ったんだ?
へぇ、理々ちゃんリズム感あるね〜。
要は「音ゲー」でありますな。
なるほど、ゲームか〜。
うんうん、いいよいいよ。ちゃんと掴めてる。
(宝島、割と難しいと思うんだけど。)
(理々ちゃん、こういうの飲み込み早いんだよね。)
でも、もう少し運指の練習しようね〜。
さー。
…………。
あゆちゃん?
……悔しい。
悔しい!
あゆの方が絶対練習してるのに!
あゆの方が音楽のテストできてるのに!
あゆの方がっ……!
なのに……なのにっ!!
なんでできないのっ!
なんで鳴らないのっ!
こんなっ……!
こんなのっ……。
…………。
(そんなこと、できないよね。)
(そのフルートだって、買ってもらったんだもんね。)
(それは、あゆちゃんへの「期待」そのものだもんね。)
う〜ん。
厳しいこと言ってもいい?
なによ。
できないなら、練習が足りてないってことだよ。
……っ!
あゆちゃん賢いもんね。
わかるでしょ?
そんなのっ……!
そんなの、あゆだって……!
プロの人はもっとやってるよ。
同じか、それ以上やらなくちゃ。
わたしたちが勝てる、並べるのって、それくらいでしょ?
そんなの……。
あ、あゆ……プロじゃないし……。
それはそうだけど。
私たちのバックバンドをしてくれる人たちは?
そ、それは……。
厚意でやってくれてるんだよ?
わたしたちが中学生だから。
し、知っ……。
……んぅ。
うぅ〜〜〜!!
あ、待って!
離してっ!
あゆちゃん。
キツイこといっぱい言って、ごめん。
でも、手を抜けないの。
お客さんはお金を払って見てくれる。
バックバンドはノーギャラで助けてくれる。
せめて、期待された分は頑張らないと。
期待以上は高望みでもさ。
だから、いい加減な演奏はできないよ。
う、うるさいっ。
じゃあ、愛乃と理々でやればいいじゃない!
理々は才能あってできるみたいだし!!
あんたは百年に一度の天才なんでしょ!?
才能とか、そういうの関係ないよ。
オファーは「わたしたち」に来てるんだもん。
それに……。
わたし、三人で演奏したいよ。
そんな勝手っ……!
そもそも、オファーだってあんたが勝手に……!
勝手だよ?
それはごめん。
でも、これくらいしたっていいじゃん。
させてよっ。
したかったんだもんっ!
ステージで演奏っ!
一番大好きな友だちとっ!
な、なんであんたが怒るのよ。
すん……。
って、ちょっと!
今度は泣くの!?
うぁぅ……。
ご、ごめん。
今日ちょっと情緒がアレかも……。
い、いいわよもう。
はい、ハンカチ。
うぅ……ありがと〜。
洗って返すね。
うん。
その……。
具合とか……大丈夫?
へ〜き。
でも、今日ずっとイライラしてて。
急に爆発しちゃったみたい。
ホントごめんね〜……。
い、いいってば。
あゆもそういう時あるし……。
それに、今のは完全にあゆが悪かったもの。
なんか、むしゃくしゃしたの。
愛乃が言ってること、全部正しかったから。
だから、その……。
ごめんなさい。
ううん。
わたしこそ、酷いこと言ってホントにごめんね。
あゆは大丈夫。
自分はノーダメであります。
二人はわたしの家族のこと、知ってるっけ?
お父様がトランペット奏者でお母様がアイドル。
そしてお姉様、御影池先生は音楽の先生よね。
当然覚えてるわよ。
すごくお世話になってるもの。
す、すごいでありますな!
でしょ〜。
優しいしかっこいいし、自慢の家族だよ。
でも、音楽に関してはみんなガチでね〜。
幼稚園くらいから心構えとか厳しかったんだ。
その時のが体に染み付いてたのかも。
そう……。
すごく……頑張ってたのね。
偉いわ。
ちょっ、背中摩らないで〜。
今めっちゃうるうるしてるから〜。
そ、そう?
あっ、やっぱりやめないで。
どっち!?
泣ぎぞ。
ちょっと、本当に大丈夫!?
うぁ〜今日はもうなんかダメだ〜。
あゆちゃん慰めて〜。
性的な意味で♡
…………。
それが言えるなら大丈夫そうね。
というか、なんでいつもあゆなの?
理々もいるじゃない。
え〜。
あゆちゃんのことが大好きだからだよ♡
もちろん理々ちゃんも大好きだよ♡
(とんだ八方美人ね……。)
(からかい甲斐のある子っていいよね……好き。)
ついでに言われたであります。
でも、自分も大好きでありますよ!
ありがと、嬉しい〜。
あ〜。
あゆちゃんだけ言ってくれないな〜。
「愛乃だ〜い好き♡」って言ってくれないかな〜。
は、はぁ?
ちょ、調子乗らないでよ!
誰がそんなことっ……!
え〜、あゆちゃんわたしのこと嫌い?
き、嫌いじゃないけど……。
じゃあ好き?
す……き……だけど……。
好きだけど、そんなこと恥ずかしくて言えないわよ!
自分は言えるでありますよ!
だーい好き♡
はい、2回目ありがと〜。
(普通に可愛いし嬉しいけど、号令っぽくて面白い。)
あゆちゃんが言ってくれたらな〜。
もっと頑張れるんだけどな〜。
ま。
嫌なら別にいいけどさ……ぐすっ。
い、嫌じゃないってば!
…………。
すぅ……。
はぁ……。
……き。
……すきよ。
え〜?
あーもうっ!
大好きっ!
誰のことかな〜。
愛乃だーい好きっ!
わ〜い!
わたしも大好きだよ〜!
はいはい……。
あ。
な、なによ。
今のもっかい言ってみて。
はぁ?
い、嫌よ恥ずかしい……。
お願い!
言うだけでいいから!
どれだけ必死なのよ、まったく。
はぁ。
……言うだけね。
うんうん!
愛乃大好き。
これでいいかしら?
「だ〜い好き」でもっかいお願い。
(イラッ)
(むかつくわね。)
(あゆに言われてるのに顔色一つ変えないで!)
(パパなら一撃でメロメロになるのに!)
(こうなったら、本気で悩殺してやるわ!)
すぅ……。
はぁ……。
愛乃だぁい好き♡
うっ……可愛いっ。
自分もドキッとしたであります!
(これは効いたわね!)
(しかも、関係ない理々にまで!)
(やっぱり、あゆは「カワイイ」のプロね!)
ふぅ……やっと動悸がおさまったよ。
カワイイの過剰摂取〜。
満足かしら?
満足満足!
じゃ、今のを踏まえてさっきの連符のとこ吹いてみて?
今のを? 踏まえて?
い、意味がわからないんだけど。
いいからいいから。
「愛乃だ〜い好き♡」って気持ちで吹いてみて。
本当にどういうこと!?
でも、愛乃が言うならやってみるわ……。
すぅ……。
〜♪(愛乃だぁい好き♡)
ん!?
で、できたわ!
よかった〜。
言葉を当てはめてリズムとる練習方法思い出したんだ。
タタタで「愛乃」、ンータタタで「だ〜いすき」って感じ?
あゆちゃんって割と理詰めするから、合うかな〜って。
わたし、ほとんど感覚でやってるからすっかり忘れてたや。
〜♪(愛乃だぁい好き♡)
す、すごいわ!
思い浮かべる言葉が最悪だけど!
え〜。覚えやすいでしょ〜。
もう一回!
〜〜(あいのだーいすき。)
あ、それだとちょっと早いかな。
〜♪(愛乃だぁい好き♡)
そうそう。
ん?
〜〜(愛乃大好き。)
後ろちょっと早い。
〜♪(愛乃だぁい好き♡)
うんうん。上手〜。
(これ、気持ち入れないとダメなの!?)
はぁ……。
あれ?
あゆちゃん、なんだか顔赤いよ〜。
それに、そんなキスするみたいな口して……。
そんなにわたしとキスしたかった?
わたしはいつでも準備OKだよ♡
フルート!
吹いてるのっ!
で、でも。
その……。
おかげで、できるようになったわ。
ありがとう。
どういたしまして〜。
じゃあ、三人で合わせるであります!
そうしよっか。
それじゃ、いくよ――。
END